海外赴任者が受け取る諸手当の課税関係
海外赴任に限らず、社員が国内や海外に出張した際や国内での転勤などでも、追加的に諸手当を支給することがあると思います。家族手当や役職手当などの一般的に支給される諸手当は給与所得を構成し、所得税や社会保険の対象となりますが、通勤手当などについては(社会保険の算定の対象にはなるものの)所得税上は非課税となります。それでは、海外赴任に伴い支給する加給分はどうなるのでしょうか。
まず、最初に考察すべきことは、日本の税法と赴任地における税法の違いです。日本の税法では課税対象となっても現地国では非課税となっていたり、逆に日本では非課税となる手当が現地国の税法では課税対象となっていたりする項目も存在するため、赴任先の税制をよく調査する必要があります。現地での給与計算においては、日本の税務上の取扱いがそのまま適用されると考えて日本と同じように計算するのではなく、現地の会計事務所などとも連携しながら、実施していくことが望まれます。
赴任手当や家賃手当、役職手当などについては、所得税の対象となる可能性が高いと考えられます。日本においてはこれらの手当は所得税の課税対象となっています。なお、日本において家賃手当は所得税の課税対象となるものの、社宅については社員が一定の家賃負担をしていれば所得税の課税対象となりません。しかし、この社宅の提供についても、国によっては所得税が課されてしまったり、会社側でも法人税上の損金に計上出来なかったりする場合があります。日本の場合と同じように「賃貸料相当額」を算定してその金額だけ社員に自己負担させていたとしても、税務上のルールが日本とは異なるため、福利厚生費などとして認められないケースも考えられます。
海外赴任者への支度金の税務上の取り扱い
一方、海外赴任に伴い必要となる引っ越しや家具の購入などの準備費用に対する支度金は、日本のルールでは所得税の課税対象とはなりません。これは、海外赴任を命じた会社が、それに対して発生する実費を負担してあげるという性格のものであることから、本人の経済的利益にはならず、旅費のような扱いとなるためです。出張に際して支給する出張手当(日当など)と同様の取り扱いとなります。ただし、支度金の支給額が大きく、合理性を欠く支度金の支給となり、海外赴任者の経済的利益とみなされるようなものとなってしまった場合には、所得税の課税対象となってしまう可能性もあるため、実際に支給する際には慎重な判断が要求されます。
また、例えば発展途上国のような地域に赴任することとなった場合には、事故などのトラブルを未然に防ぐ目的などで本人の運転を原則として禁止し、替わりに運転手を手配するケースも見られます。この運転手の人件費についても、基本的には会社の費用負担で海外赴任者の所得税の課税対象にはならないことが多いと考えられますが、本来個人で契約すべき運転手の人件費を会社が負担しているとみなされた場合には、海外赴任者に対する経済的利益の供与として所得税が課されてしまう可能性も考えられます。
なお、海外赴任は会社の辞令によりさせていることから、たとえ本人に所得税が課されることとなってしまったとしても、その税金も含めて会社が支給している場合も多く見られ、対応は様々といえます。
この様な事を防ぐ為にも、赴任者に支払っている手当などを、全て一元集約管理し、提携している現地会計事務所と課税対象、非課税対象の確認が必要と考えられます。