◆CRSとは
Common Reporting Standardの頭文字をとった言葉で、日本語では共通報告基準というものになります。
これは国際的な租税回避を防止するために、OECD(経済協力開発機構)が策定した、各国の金融機関の情報を交換し合うというものになります。
2018年より発効し、現在100カ国を超える国が加入しており、日本もその中に含まれています。
つまり、日本の非居住者が海外において保有する口座の情報は、その居住地の税務当局に報告され、その情報は日本の税務当局とも共有されることになります。
例えば、ある国の居住者が海外の口座を使って租税回避行為を働いていても、その国の税務当局としては全ての取引を把握することは困難であったという実情がありましたが、この制度が開始されることにより、海外の口座を使った租税回避行為を把握できる可能性が高まったと言えます。
◆CRS発効以前は
租税条約などにより各国の税務当局はそれぞれの国の納税者情報を交換することが出来ました。
租税条約は正式名称としては、例えば日本が締結しているものは「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国と○○国との間の条約」などという名称が付されており、脱税防止のための相互協力が条約の目的に含まれています。
ただし、名称の通り租税条約は二カ国間のみの取り決めのため、条約を締結していない国における口座情報は情報交換の対象ではなかったり、自国の情報の開示に積極的ではない国があったりした関係などから、網羅的には情報交換ができない場合が多かったといえます。
現在、このCRSが開始することにより、各国の税務当局は自国の居住者が海外に有する口座の情報を入手することが可能となりました。
◆留意事項について
日本からの海外赴任者は、赴任先の国で開設した口座と日本に残してきた口座の両方で給与を受け取るケースが多いと思いますが、日本の法人から日本の口座に受け取る給与、すなわち日本国内で完結する給与部分については現地における税務申告上漏れてしまうケースも多いようです。
日本からの赴任者が日本においても給与を受け取っていることが多いという事実自体は海外の税務当局も把握しているようですが、具体的にどれだけの金額を受け取っているのかまでは把握できていないことが多く、課税上の障壁となっていました。
しかし、CRSにより、ここも網羅的に把握され、申告漏れが生じている場合には追徴課税されてしまう可能性が高まっているため、海外赴任者および海外赴任をさせている会社は、より一層税務申告において留意する必要があります。
なお、不動産収入など、海外赴任者が日本において給与以外の収入を得ている場合にも、赴任先の国における税務申告に含める必要があるため、合わせて留意することが望まれます。